かつどうきろく帳

てさぐりなブログ。

母に時代が追いつく日

 私の母は昔から手芸が好きなようだ。母の母も、和裁が得意だ。だから、その血をひくはずの私も、手仕事が得意であってもよさそうなものだ。けれど、私はそういうことに全く興味を持てないまま年をとってしまった。ミシンも怖くて使えないし、編み物もやりたいと思わない。母が一つのものを作り上げる、その根気の良さには本当に関心する。5年前に母が脳梗塞で倒れ、左半身が不自由になったため、半年ほどリハビリ施設にいたことがある。入院の間に作り上げたものの完成度に私は驚いたものだった。

 と、まぁ褒め讃えているけれども、母のセンスは私から見て、実はイマイチだ。冬が近づくと、マフラーやセーターを作りまくる母だけれど、色選びがなんというか・・・。派手好きなのか、突拍子もない色を選ぶのだ。少しシックな色合いでまとめれば素敵なのになぁ、と思うことが多々ある。蜜柑色のフード付きスヌードをお揃いでかぶる父と弟を見るといつも笑ってしまう。

 一昨年の初冬、母から荷物が届いた。箱の軽さに嫌な予感がしたが、開けてみてやっぱりな、と思った。ごついセーターが2枚入っている。白と紫のかぎ編みのセーターと、同じくかぎ編みでオレンジとピンクのセーター。色合いがひどい上に、半袖なので、いつ着るんだよ〜と苦情の電話を入れた。すると、母からは「白と紫は、ひるねすきー君(夫)のママにあげてね」と返ってきた。えええっ・・・いやいや無理無理、これは人にあげられるものじゃないよ・・・。そんなわけで私は、その2枚のセーターをこっそり自分で所有し、しかも衣装ケースの奥底に詰めて眠らせていた。

 ところが、今日のことだ。なんとなく若い人たちが履くようなジーンズがほしいなぁ、なんて思って、ガラにもなくフレアジーンズを買ってみた。試着しながらふと、あのセーターのことを思い出したのだった。でも、その時点では「着てみようかな」と思ってはいない。あのセーターをクッションカバーにでもするか、みたいなことを考えていた。全くひどい娘じゃないか私は。いや、でも本当に着るのは無理だと思っていた。

 帰ってきて、衣装ケースをひっくり返し、例の2枚を取り出した。うわぁ、今みてもひどい色合いだ。しかし、なんとなく思いつきで買ってきたジーンズと合わせて着てみたら・・・あれ?なんかいい感じだ・・・。不思議なほど、そのセーターたちが素敵に感じられるようになった。しかもしかも、絶妙なボートネックだったり、ハイネックだったり、どうなってるんだ。これはちょっと着て歩きたいではないか!

 自分でも不思議でたまらない。この心境の変化はなんだ?年取ったからなのか?それとも母がフレアジーンズに合うセーターを作ってたってことなのか?そうだ母は若い頃パンタロンとか履いてたんじゃん!うっわそっかー見くびりすぎてたわお母さんすっげーごめん!

 そんな経緯で、今年の冬はちょっと冒険をしよう。手編みの、ど派手なセーターで外を出歩いてみる!でも案外すごくいいんじゃないかなと思っている。田舎で家に籠って生活している母のセンスに時代が追いついた、なんて冗談半分だけど、母に言ってあげたいものだ。

 お母さん、今更ながらですが、セーター2枚、たしかにいただきましたよ。